超薄型静電アクチュエータを用いた触感インタフェース[1]

キーワード:バーチャルリアリティ,ヒューマンインタフェース,皮膚感覚,触覚,触感,タクタイルディスプレイ


はじめに

 コンピュータの新しいインタフェースとして,物体に触れた際に感じる「触感」を再現する装置の開発を行っている.感覚的な表現をするならば,「つるつる」「ざらざら」とか,「ねばねば」「さらさら」といったような表面性状を表すための装置である.
 このような触感を再現する装置は,バーチャルリアリティの分野における皮膚感覚ディスプレイ[2-5],あるいは,視覚障害者用点字ディスプレイなどとして,これまでに多くの開発例がある[6].本研究では,超薄型静電アクチュエータを用いることにより,従来装置より軽量コンパクトでありながら,多様な表現が可能な装置の開発を行っている.これにより例えば,インターネットショッピングにおいて商品の触感を提示する,などといった新しい表現を可能とするインタフェースを実現することを目指している.

装置構成

 1自由度プロトタイプの試作例を図1に,その動作を示す模式図を図2に示す.本装置は,内部に微細な帯状電極を有する2枚のフィルムからなる.これら2枚のフィルムが超薄型静電アクチュエータを構成する.一方のフィルム(固定子)は,ベース台に固定されており,他方のフィルム(移動子)はミニチュアリニアガイドで案内され,左右に移動可能となっている.操作者は移動子フィルム上に直接指をおき,移動子フィルムを指と共に左右に動かすことで,静電アクチュエータの発生する推力を指先に感じ,その結果として,特定の表面性状を知覚する.

 図2は,操作の様子を模式的に表した図であるが,この図に示すように,指を左右方向にフィルムごとすべらせることによって,何らかの面粗さや摩擦特性を有する面をなぞっているかのような感触を感じ取ることができる.

1自由度プロトタイプ
図1 1自由度プロトタイプ

模式図
図2 模式図
 本装置で用いているフィルムの模式的な構造を図3に示す.フィルムは,フレキシブルプリント基板技術により製作されており,フィルム材質はポリイミド,電極部分は銅である.フィルム内の電極は大きく3分割されており,いずれの部分も,電極は3相ごとに結線された200µmピッチの3相帯状電極となっている.ただし,リプルの少ない推力特性を得るために,移動子側電極にはスキューが施してある(=波形形状になっている).

 3分割された電極のうち,両側の二つが推力発生用電極として用いられ,中央の電極は,静電容量式リニアエンコーダとして移動子位置の測定に用いる.これにより,特別な外付け装置無しに移動子の位置(=指の位置)を測定することができる.

フィルム構造
図3 フィルムの構造
(本図は模式的なもので,電極ピッチや電極本数等は実際とは異なる)

触感提示原理

 触感提示原理について述べる前に,薄型静電アクチュエータの力発生について述べる.

 図4の断面模式図に示すように,固定子,移動子それぞれのフィルムの3相電極に対して,接続順が互いに逆になるよう3相正弦波を印加すると,両フィルムの上に正弦波状の電位分布が発生する.このように周期の等しい二つの正弦波状電位分布が存在する場合,両者の間には,静電気力の相互作用により,図5に示すような,両電位分布の空間的位相差に応じた推力が発生する.

 こうして発生した推力は,移動子フィルムを介して,操作者の指に伝達される.よって,この推力発生をコントロールすることにより,操作者の指に対して,様々な力を与えることができ,それによって,様々な表面性状を知覚させることができる.特に,本装置は,電極ピッチが細かいことと,アクチュエータと指との間に運動伝達機構が介在しないことにより,µmオーダの位置分解能で,指に与える力を制御することが可能である.

断面模式図
図4 断面模式図

発生力特性
図5 発生力特性
 指先に与える力(=アクチュエータの発生力)を,指先の位置に応じて変化させることで,様々な感覚を操作者に与えることができる.ここでは,「周期的に分布した微細な突起を有する表面」をなぞった感覚を与える手法について述べる.

 Minskyらによれば,図6に示すように,物体表面の微細凹凸形状の傾きに比例した(水平方向の)力を操作者の指先に与えることで,操作者に擬似的に凹凸面を感じさせることができる[2].よって,例えば高さ ±H,周期 λで正弦波状にうねった面を表現する場合,表面形状 P を位置 x に対して,

P(x) = H sin(2π x / λ - π / 2)

と定義すれば,

f(x) = kf d P(x) = kf H sin( )
───────
dx λ λ

で表される推力をアクチュエータに発生させることで,正弦波状の表面を提示できる(ただし,kfは比例定数).

Gradient technique
図6 Gradient technique[2]

 図5に示したように,静電アクチュエータの推力 f は発生する電位分布の空間的位相差δに対して f(δ) = κt v02 sin(δ) と正弦波状に変化する(ただし,κfはアクチュエータサイズにより決まる推力定数,v0は次に示す印加電圧振幅とする).印加される3相正弦波を v = v0[sin(ψ), sin(ψ-2π/3), sin(ψ+2π/3)] とすると,空間的位相差δは,δ = 2ψ + (2π/3p)x と表されるため,印加する電圧の位相ψを,

ψ=π(1/λ - 1/3p) x

として制御することで,正弦波状にうねった表面を提示することができる(ただし,p=200µm).図7にその一例を模式的に示す.

周期突起の表現方法
図7 周期突起の表現方法
 この手法に基づき,50µm〜1mm程度の複数の異なる突起感覚λを有する表面を提示する実験を行ったところ,それぞれ異なる感覚を操作者に知覚させることに成功した.なお,その際の印加電圧振幅v0は,200〜500V程度であった.

まとめ

 薄型静電アクチュエータを用いて触感インタフェースを試作した.試作した装置を用いて,正弦波状の表面突起を有する表面形状を再現することが可能であった.

 本装置は,移動子フィルムの面全体で推力を発生するため,複数の指で直接移動子に触れて力の提示を受けることが可能である.そのため,スティック等を介して力の提示を受けるのに比べ,より現実に近い感覚を得ることができる.また,軽量なフィルムを利用しているため,可動部分の重量は25gと小さく,操作者は可動部の存在を意識することなく操作が可能である.  ここでは,一定間隔の突起を有する面を表現する手法について報告したが,本装置は原理的には,様々な突起形状や,摩擦特性の再現も可能である.今後は,電圧の制御方法を工夫し,様々な表面特性を再現する実験を行いたいと考えている.


関連項目


参考文献

[1] 山本,高崎,樋口:「薄型静電アクチュエータを用いた触感インタフェース」,SICE SI2000講演論文集,pp. 59-60 (2000)
[2] M. Minsky, et al., "Feeling and Seeing: Issues in Force Display", Computer Graphics, 24(2), pp. 235-243 (1990)
[3] R. D. Howe, et al., "Remote Palpation Technology for Surgical Applications", The IEEE Engineering in Medical and Biology Magazine, 14(3), pp. 318-323 (1995)
[4] 奈良,前田,柳田,舘:「弾性波動を用いた皮膚感覚ディスプレイ」,日本バーチャルリアリティ学会第2回大会論文集,pp. 181-184 (1997)
[5] H. Kajimoto, et al., "Tactile Feeling Display using Functional Electrical Stimulation", Proc. of ICAT'99, pp. 107-114 (1999)
[6] 舘,佐藤 他:「バーチャルリアリティの基礎2 人工現実感の設計」,培風館 (2000)

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Higuchi Lab.