ΔΣ変調の出力1ビットディジタル信号を用いた制御システム

キーワード : ΔΣ変調, ΣΔ変調, 1ビットディジタル信号, 制御


概要

通信、音響、計測の分野において、ΔΣ変調による1ビットディジタル信号による、高分解能・高精度・高速のA/D、D/Aが使用されている。ΔΣ変調が用いられる理由は、構造が簡単であること、A/D、D/A変換器の一部分がデジタルで構成されることがあげられる。しかし、従来のディジタル信号制御では、この1ビットディジタル信号をディジタルフィルタなどでマルチビットディジタル信号に変換して利用されることが多い。ΔΣ変調のA/D、D/Aの多くは、マルチビットディジタル信号出力である。しかし、本来1ビットディジタル信号である信号を変換することなしに、演算し出力すれば、回路構造が簡単になるばかりか、分解能の面でも向上が期待できる。 現在、1ビットディジタル信号の演算アルゴリズム、1ビットディジタル信号による制御系の特性、1ビットディジタル信号制御システムのアプリケーションについて研究を行っている。

1 はじめに

1ビットディジタル信号とは、ΔΣ変調後の低ビットの出力信号のことを指す。通常は、1ビットなどの低ビットの信号である。しかし、われわれが日常使うA/D変換器の多くは、デシメーションフィルタ等を用いて、マルチビットディジタル信号を用いて使う。それに対して、このΔΣ変調の出力信号である1ビットディジタル信号をそのまま演算することによって、制御システムを構築することが研究の目的である。1ビットディジタル信号を用いた制御システムにより、従来よりも安価で、高速・高分解能な制御が期待できる。

2 1ビットディジタル信号を用いた制御システム

センサからの情報をΔΣ変調により、1ビットディジタル信号に変換して、その信号を演算して、アクチュエータ等に出力する。一般のマルチビットディジタル信号を用いた制御システムと異なる点を説明する。図1に、マルチビットディジタル信号を用いた制御システムを示す。
マルチビット制御システム
図1 マルチビットディジタル信号制御システム
これに対して、1ビットディジタル信号を用いた制御システムを図2に示す。図1と図2の違いは、信号線が複数か1本の違いがある。これにより、入出力が簡素化できる。また、1ビットディジタル信号の演算は入出力が1ビットであるため、演算器のゲート数が少なくできる利点がある。さらに、ΔΣ変調はセンサと一体にして作られる例もあり、この点を考慮するとより構造が簡単なシステムができることが期待できる。
1ビット制御システム
図2 1ビットディジタル信号制御システム

3 1ビットディジタル信号の演算

マルチビットディジタル信号演算では、入力ビット数と出力ビット数だけのカウンタが必要である。それに対して、1ビットディジタル信号の演算は通常のマルチビットディジタル信号の演算と異なる。入力と出力を1ビットディジタル信号とするのが基本である。そのため、通常のマルチビットのプロセッサは使用することはできない。そこで、われわれは加算、増幅、微分、積分、掛け算等の演算を考案してきた。これらの演算を用いると、1ビットディジタル信号の演算を行うことができる。

4 制御の分解能

高分解能のA/D、D/A変換器の多くは、ΔΣ変調を用いている。しかし、ΔΣ変調変換器内部では、1ビットなどの低ビットのΔΣ変調がされていることが多い。そのため、もとの1ビットをマルチビットディジタル信号に変換することなしに、演算できれば、分解能が高いのは明らかである。

5 高速な制御

高速な制御をするには、制御できる帯域が広いことが必要となる。そのため、A/D、D/A変換器のサンプリング周波数が高いことが要求される。ΔΣ変調のA/Dでは、すでに1GHz程度のものも、存在する。そのため、帯域は十分取れる。

6 まとめ

 1ビットディジタル信号を用いた制御システムの概要と、効果について説明した。1ビットディジタル信号を用いて制御システムを構成すると、分解能が高く高速な制御が実現できる。

参考文献

[1] 東條啓一郎, 黒澤実, 岡宏一, 樋口俊郎:「1ビットディジタル信号処理を用いた制御の分解能と情報量についてのシミュレーション」,電気学会論文誌D,Vol. 118,No. 5,pp. 623-629,1998
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Higuchi Lab.
1999/6/21